Death earth love-R 【11-12】

 

 

 

 

 

【壱拾壱話】 


一度二階の事務所に寄ると、樫原が待っていた。 
彼が用意してた、サンドイッチの様なハンバーガーの様な物と彼が自家栽培して作ったブドウのジュースを受け取る。 

エレベーターを下って行くと、地下三階を過ぎた辺りからエレベーターは四角状を透明な強化アクリルで覆われた筒の中を下って行く。 
地下十階から地下三階までは筒抜けの空洞に成っている。 
この研究所は山の中腹にあって、山の横側から掘って完成させた施設なので、山の麓から入れる入口もあったが、麓側は度々の地震で入口がゆがみ使用されてなかった。 

例の大津波で、ほぼ人類は壊滅したという事が解っていた。 
他に人類が生き残った場所はブエノスアイレスしか無くなったらしい、地球上のほぼ反対側にあって未だに動乱が続いている様だったので、移動手段も今の人類には無く、完全に北海道とブエノスアイレスは離れた孤島として交流も無くなっていた。 

地表30mから50m以上の高度では、気体成分や粒子配列が異なり、気体を圧縮して反作用で推進する飛行機やヘリコプターも飛行出来ないし、グライダー等の気体圧力差を利用して飛行するモノも全く飛べなかった。 
圧縮側と非圧縮側の圧力差が0になってしまうのだ。過去に有効だった相対性理論や学問、学術とは全く異なった異質の空間が空にあって、人類は籠に入れられた小鳥の様な状態になっていたから、ブエノスアイレスに残った人間から攻撃される可能性はゼロに等しいと言える。 


【小娘】だけは、自分自身の体内に反重力装置を持っているので、偶に高度を上げて周囲を観察してもらう事ができた。 

でも、中身は【かのりが基盤】だった。 
3年間もの間、社員の全てをマインドコントロールして、プロジェクトを推進していた。コントロールされている社員達は、地球のこの事態に気づく事無く和気藹々と仕事をこなしたり、社員同士で恋愛したりしていた。 

だから俺に対しても、小娘から得られる情報は真実を言ってるとは思えなかった。きっと俺自身も一部コントロールされているに間違いなかった。 

しかし、【小娘】自体も変わって来ていた。 
3年前は感情の無いかのりの意識体のコピーの様だったのだが、最近は女性らしい服装やアクセサリーをつける様になり、好きな相手でもいるのか、ボ〜〜〜〜と頬を赤らめている事があったり、突然姿を見せなくなる時がある。・・・何をしているんだろうか?俺には自分の娘の様にやきもきしてしまう時があった。 

そんな訳で、特に阻むものも無くすんなりと3年間ここまでやって来た。 
何故かまだ試練とか敵とか・・・の気配がしなかったので、警備は手薄だった。 

エレベーターを下っていくと、巨大は空洞の底にある赤い液体を張ったプールで、巨大な人型のフレームが組み合わされていた。 

プールの大きさは楕円状で最長部は直径70m、最短部35m、深さは25m 
人型のフレームは頭部側が真北を指している。 

プール自体は、ドーム床下から可動出来る円状のリングで持ち上げられており、回転することが出来る。 
フレーム自体が磁気を帯びており、方位磁石の針の様に頭部が北を向いてしまう。超高精度で仕上げて行くには、機体に負担が掛かっては行けないので余分な横方向に掛かる力場をなくさなければいけない。 
少しの誤差でも・・・50mクラスの機械だと最初のホンの少しのズレが末端で大きな誤差となってしまう。 

この作業プールと空洞内部壁面から出ている各クレーンやら作業機械を組み込むのに丸1年、その後の下準備にまた一年、このフレームを完成させるのには先月まで掛かって、丁度今日で3年目だった。 

フレーム製作と言っても、従来の大型機器や車を作るのと全く異なった方法で製作していた。 

簡単に書くと、 

@生物の細胞の設計を基本として、たんぱく質にある因子を取り込ませて加工し繊維の織込のある様な状態(カーボン焼成加工直前)になる様に操作する。 
ADNAに形状設計を入れて、生成すると設計通りの形状になる固体に育てる・・・この状態では植物の様な生態。 
B各部組みあがった固体が出来ると、別室にある加熱室で加熱して仕上げる。 

Cプールの液体は再生液でBの工程で物質変化して死滅した部品にナノマシンを浸透させて、自己修復作用を与える。 

・・・Cに記す内容は非常に重要な作業で、今のわれわれには壊れたり故障した場合においてはすぐにラボに持ち込んで修理できる状況にないので、壊れたり故障した場合には自己修復してもらうしかないのだった。 

D素体の組み込み・・・小娘の骨格やら内臓も@のような手順に似た方法で作っている。これについてはプールの中で培養、増殖されて、最初は基礎的な配線を束ねた細い血管みたいなフレームの様なモノにまとわり付いて育っていく。 
加熱処理はしないので、Bで作る外皮よりは弱いが柔軟性に富み、再生能力が高い、細胞自体に反重力物質を生成する機能があり、ある信号入力によって重力に縛られない固体移動が可能である。 

反重力物質に当たっては、2年前のある日ブエノスアイレスに居るらしい【かのり】から大量のオリハルコンが送られてきた。 
ある一定量のオリハルコンの粒子を加工してプールの内部に漂わせて、生成する細胞に取り込ませる事で細胞自体が反重力物質を生成できる様になる。 


・・・フレームなどの生成に関しては以上の通りだ。 
約三年でここまで辿りついた。 

プールの真上まで伸びた作業クレーンに乗る俺の眼下で、赤いプールの中で外皮フレームを外された人型の巨人が静かに横たわっていた。 

今にも起き上がり、俺を襲ってきそうな感覚にとらわれる事がある。 

・・・しかし・・・一応、人が乗らないと動かせられない・・・。 

スタッフの中には乗り手は見つからなかった。 
人並み外れた体力とバランス感覚、反射神経が必要で、出来上がってみたものの普通の人間が乗れるモノでは無かった。 

乗り込みにも通常の人間が耐えられると思えない。 

テストで一年半前に乗り込んだ樫原でさえ、一週間は気が触れておかしくなって自室から出てこれなかった。 

しかし、必然とは恐ろしく偶然や奇跡が重なるものである。 

1年前に起きた出来事をメモに残していた。 

【長岡 寛:メモ】 
------------------------------------------------------------------ 
2014年8月9日 

士別市に移住して、一年目は不思議な事が何度も起こった。二年目以降は起こりすぎて・・・特に気にならなくなった。 

地球のほぼ地表が壊滅した様子だったのに、日本各地から船で輸送され、何台もの各大型のトレーラーに積まれて、機械の部品がやって来た。 
陸送して来た運転手は何事も起こってない様な様子をしていて、荷物の受け渡しも何事も無かったの様に問題なく終わり、、、帰って行った。 
彼らには帰る場所などあるのだろうか? 
------------------------------------------------------------------ 

2014年8月10日 

沿岸部は津波の影響で破壊されていた筈なのに・・・と考えていたのだが、海外に発注していた各部品が輸送船団ごと突然、士別市に近い朱鞠内湖に現れた。部品に関しては無傷であったが、各船の中には一人の人間も見受けられなかった。 

そのほかにも突然、研究所の横に置き去りになっている事もあった。 

明らかに現代のテクノロジーを超えた何かによって、動かされている様だった。・・・しかし作るのは人間達だ。 
------------------------------------------------------------------ 

2014年8月12日 

敵は最終決戦を待ちわびて楽しんでいるのだろうか? 
しかし、巨大な人型の兵器を作っているのは確かだが敵が何なのか全く解らないままである。 

それをどう運用するかという事に至っては全く解らず、まさに暗中模索状態だったのだが、今日突然、研究所を尋ねて来る者がいた。 

16歳ぐらいの少年だった。・・・堀井綜という名前で敵対する側者の種族だが、訳在りで手伝いに来た・・・」と言う。 


突然、やって来て敵に手伝うと言われても・・・どうしたものか? 
------------------------------------------------------------------ 

2014年8月14日 

堀井綜を拘束した。 
今日で2日目である。 
小娘が急に「話してみる」と言い出し、独房として作った事務所の一角に行ってみると、彼はベットに仰向けに寝たまま死んでいた。 
しかし、横に書置きがあり『このままにしておいてください、急用があって出掛けてきます』と書いてある・・・。 

書置きを信じてそのまま放置する事にした・・・。 

------------------------------------------------------------------ 

2014年8月15日 

朝、事務所に寄ると堀井綜がいた。独房から出て?椅子に座って窓から外を見上げている。 

どうやって独房から出たのかと考えていて・・・良く見ると体が半分透き通っていた・・・。 
アストラル体⇒いわゆる一般的に幽霊と言われる状態だった様である。 

聞くと、急いで出掛けたので、独房に入れた体の保管方法を失敗して肉体のみ死んでしまったらしい。 

俺は幽霊の拘束の方法なんて知らないので、色々と考えた挙句彼の協力の申し出を受ける事にした。 

で、彼に一つだけお願いした、「女性社員のプライベートや裸を除かないように(笑)」と、すると彼は大真面目な顔で言った『僕はある一人の女性にしか興味をもってません!』 

紳士的な奴だ・・・。 
俺が他の女の子を覗けないから悔しくて言ったのに、もっと腹の立つことを言い返されてしまった。 
なんとなくコイツを嫌いになった。 


かのりはどうしているんだろうか? 
------------------------------------------------------------------ 
2014年8月16日 

彼は敵側と以前言ってたので、敵について情報を得ようと聞いてみた。 

彼の言い分はこうだった。『今回は人間の叡智を分析される試練である』が、今の人類はネットワークに頼っての叡智の集合体であるから、『ネットワーク崩壊後の今では何も出来ず大幅なペナルティを受ける結果になっている』その為、自分が時間の進行枠を超えて『過去のネットワークに繋げる事を行うのをサポートする為に派遣された』と・・・随分余裕のある敵である。 

細かい情報については彼は何も語らない。 

その時はいつ来るのかと聞いたら、『あと一年半程です。』と言う。 

ネットワーク構築に体が居るそうなので、樫原を呼んだ。 
睡眠薬を飲ませて、彼に乗り移って貰って一時間後、コンピューターがネットに繋がる様になった。 

ネット上の日付けを見ると、2012年9月15日17:59分になっている。 
あの大津波のあって壊滅した時刻だった・・・。 

時間を越えて過去のネットに繋がっている訳であるが、その時間から注意や勧告をしても全く無駄な訳である。 

技術情報の所得だけに使うことにした・・・。ついでにセクシー画像所得も頑張った。 


------------------------------------------------------------------ 

2014年8月17日 

政府にしか公開されてないが、極めて身体能力が高い超人みたいな人間は政府のファイルに記されている。 

国際政府のファイルに進入して、北海道とブエノスアイレス在住に絞って、検索する。 

勿論、ここで作っている機械の操縦者に抜擢する為だ。 

かのりには頼めないが、機械のスペックから考えれば、起動後ブエノスアイレスまで移動は可能だ。 
しかし、出来れば北海道に適任者が居れば車で迎えに行く事ができる。 

ここに居る連中以外は、皆過酷な状況で生きている。なんとかスカウトは可能に思えた。 

------------------------------------------------------------------ 
《空白》 

------------------------------------------------------------------ 

メモはココまでだった。 
端末で検索して、北海道に一人、ブエノスアイレスに2人見つけた。 

しかし、熟成運転まで考えるとブエノスアイレスの2人は現実的ではない・・・ 

北海道にいるなら一番都合が良いので、翌日、富良野市まで、樫原(中身は堀井綜)と車で向かったが、途中から道が断絶していた・・・というより、大きな湖が広がっていた。 

断絶した道の先は断崖だった。その断崖の中に湖があった。 
断崖の底の湖面まで100mはあろうかという高さがあったのだが・・・驚いたのは別の事だった。 

断崖の先の空中は何故か白く濁っている、例の変化した空気層のようだ。 
15m先まで近づけたので良く見ようと、車から降りて立っていた。 

と・・・突然、白い空気層から大きく長い象の鼻の様なモノが飛び出て来て、車を掴み、引っ張って、一瞬で断崖から落としていった。 

車を引っ張られた時、開け放していた車の右ドアが、俺の体を強く飛ばした・・・飛ばされた後は少し意識があったがあまりの痛みにすぐに気を失ってしまった。 

数日後、俺は研究所の治療室で寝ていた。 
樫原も同じベットで寝かされていた。 

俺の方が早く起きる事が出来てよかった。 
その後、樫原が目覚めて、動けない俺に樫原が抱きついてきたのだった。 
(堀井綜は樫原から出ているらしかった。) 

企業医に聞くと、出発した翌日、樫原が俺を肩に担いだまま走って帰って来たという。 

富良野から士別まで100kmはある筈。 


・・・俺はあることに気づいた! 
堀井綜に樫原に入って貰えば、人型機械の操縦ができるのでは?? 

問題は堀井綜が何と言うかである。 
いや、何としても説得に応じてもらわなければ! 

しかし、気に掛かる事が一つある。 
人間の手で作り上げるテクノロジーの物を使って試練に耐えるのが今回の目標である・・・人間ではない者が乗っても平気なんだろうか??? 

搭乗者の事についてはかのりは何も言ってなかった。 
とりあえず【小娘】とも相談する必要がありそうだ・・・。 

俺は最近頻繁に姿が見えなくなる【小娘】を探しに研究所周辺に探索に出た。 



*********************************************

【壱拾弐話】(前編)

 研究所の周辺や裏手を歩き回り【小娘】を探したが、急に見つかる訳も無く、タバコでも吸って一休みしようと屋上に行く事にした。 

2階の事務室を出て、コンクリートの壁に囲まれた階段を上る。 
屋上に上がるには2階から5階までの長い階段を上らなければならない。 

壁面に蛍光灯が付いているが、3〜4本の内の1本は点かなくなっていた。蛍光灯自体もこの世界では現在生産出来る訳もなく、この先、人間が以前の文明的な生活に戻るには余りにも凄惨な状態になっている。・・・と言っても、この階段の蛍光灯の寿命が尽きる頃には人間は存在しているのか?と考えてしまう。 

階段を上っていると、度々遭遇する暗闇が俺は少し恐ろしい空間に思えた。その暗闇の中に足を踏み込む時・・・そのまま中に体が沈み落ちてしまう様な気がして、暗い部分は小走りして階段を上って行った。 

ようやく階段を上りきり、鉄製で錆びた重たいドアを開け外に出た。 

屋上は空からの光に溢れ、一見は心地よい居場所だった。 
タバコに火をつけて一服する。 
タバコの煙が上へ上へと上昇していく。今日は風が殆ど吹いていないので真直ぐ煙が上がっていく。 

上を見上げると薄い雲がある。広範囲に渡って広がり、雲間から眩しい光が射しこんでくる。 

しかし・・・うっすらと雲間から見えるモノがあった。 

地上から見上げる空は一見普通に見えるのだが、ビルの5階に上がって空を見上げると、それはおぼろげなく見えてくる。 

雲間から見える薄青い構造物が視界いっぱいに広がっている。 
巨大な木の根がウネって横方向に伸びて絡み合っている様な張り巡らされた模様の様に見えていた。 
それは、3年前から少しずつ広がって来て、今やこの北海道の空を覆っている。 

不思議なのは、その構造物に遮られている筈なのに我々が暮らしている地表に太陽の光が届いているのだ。 
その事は、我々を試している存在が、我々を遥かに超越した技術力を持っていることが明白にわかる光景なのだ・・・。 

俺は子供の頃、親にせがんで熱帯魚を飼っていた事がある。 
熱帯魚は水槽に水を入れるだけではすぐに死んでしまう。 

熱帯魚を生かし続けるには、ろか器を使って水を常に綺麗にして、ヒーターを使って水温の温度管理をし、蛍光灯で照らして魚の状態の監視と水草を光合成させる等、水槽内の環境を整えなければいけない。 

もしかしたら、今生き残った人間達はまさに空の上に存在している彼ら?にとって、水槽の中で生きている魚の様な存在かもしれないと思う。 

地球の絶妙なバランスの中で生きてきた人類は地球のちょっとした変化で絶滅の危機に陥ってしまった・・・かなり危うい生命体だった。 

実際の人間は・・・SF映画に出てくるような、無から何かを生み出したり、空間を自由に操ったりする事は出来ない。科学文化と言っても地球上で元々ある物質の性質を利用して加工する事しか人間には出来なかったのである。 

人間が構築したもので、素晴らしいと考えていたのは、ネットワークによる情報の共有化である。これによって知識の無いものでもネットワークから知識を補って必要な答えをまとめる事が出来る・・・。 

その事が何者に望まれているのか解らないが、俺が作り上げている物が人間が作る最後のモノで人間の叡智を試されるとか言われても、未だにピンと来なかった。 

再び空を見上げてみる。 
この位置から20m以上の上空に人間は上ることは出来ない。 
ここ3年間で何度かこの屋上からテストしてみたが、境から上がっていくとほぼ真空の様に感じる空間があり、更に恐ろしい程の熱の放射を受けるので・・・動作に反重力を利用し、更に耐熱を施した構造体でないと上ることは出来ない。 

その上の状況については【小娘】も【堀井綜】も何も伝えてくれない。 
その時が来ないと詳細は伝えて貰えないらしかった。 

ただ、数年の話の内容から数百メートルの加熱層があり、その上に別世界が広がっている事が解ってきた。 

**************************************************************************

【壱拾弐話】 (中編)

屋上に来てから、3本目のタバコの火がフィルターまであと1cmに届く所で、このまま捨てようか、人目がないからもうちょっとぎりぎりまで吸おうかとしている時だった。 

『ズ・・・ズズ〜ン』と音がして微妙な振動が足元伝わって来た。 

「・・・またか。」思わず声に出して独り言を言ってしまった。・・・投げつけるようにタバコを捨てた。 


日が暮れかけて来たらしく、自分の伸びた影の方に歩いて建物の東の方に来て、研究所の屋上4方向に設置してある内、東北東側にある【青龍の浮き彫り】がある双眼鏡から下の方を目指して覗いてみる。 

(青龍は風水の四方獣のうちの一体で、本来は真東に位置してた筈だが、例の津波後・・・地軸が曲がったらしく現在では東北東に位置してた。) 

・・・研究所に向かう山道を独特のディーゼルエンジンを咆哮させながら金属とセラミックの塊が、キャタピラを唸らせて近づいて来ていた。 
日本の陸上自衛隊が持つ90式戦車だった。 

さっきの大きい音は空砲の様だが、戦闘兵器の威嚇音と衝撃波は意外に人間の意識を萎縮させる効果を持つ。 

・・・しかし、相手を解ってて威嚇しようとしてるのか? 
かのりっち管理下のうちの部下達は何層にもセキュリティと防護壁に守られた地下で、外で起こっている事など知らずに作業している筈だ。 

さて、この意外な出没者達だが、数ヶ月前から現れた。と言っても中の首謀者は元々はウチの研究員で雑務をしていた若者だった。 

極秘研究の為、スタッフにもごく一部の末端情報しか与えられて無い者と深層部まで把握している者がいる。 
この伊藤健二という若者は、細かな末端部品の手配やレベルの低い書類の整理を任せていた者で、実際にここで何を開発しているかという事に関しては知らなかった筈だった。 

しかし、スタッフの女性と恋仲になり結婚した際に夫婦共々退社して街に移り住んでいた者で、街に畑を作り、他の市民と同様に自給自足をして暮らしている筈だったのだ。 

・・・実際には自給自足とは簡単なことではない。 
おおかた、慣れぬ事で生活がしていく事が出来ないのだろう。彼は元々人との交流が苦手な筈だったので、街の人々に溶け込めるとは到底考えづらかった。 

しかし、その様な人間に限って、不平不満が多いのである。更にその周りの人間をも巻き込んでしまう。物事をプラス思考に考えるより、自分はなんて不幸なんだろう、環境が悪いのだ・・・等と考えるマイナス思考はすぐに周りの人間に伝染してしまう。 

その傾向が強すぎて元々懸念していたので、退社を許可したのだが・・・移り住んだ街にもそのような輩が居て意気投合したのだろう。そして、彼の妻は彼の元上司で少しだけココの事を解っているから、妙な情報に変化して伝わっているらしかった。・・・いい子だったのに結婚して一緒に暮らすと似たもの同士になってしまったのかな?・・・それが少し悲しい。 


何度か樫原に頼んで、このかわいそうな青年が来る度に生活物資を分けてあげていたのだが、段々要求がエスカレートしてきた様だ。 
どうやって、入手したか解らないが、戦車まで持ち出すとは・・・ 


しかし、彼らはココでどんなモノを開発してたのか本当に知らないのだと解る。 
当時8億円以上した90式戦車も、ここで試作した兵器に比べると紙で出来た風船の様なモノだ。 
俺の内部の深い所からメラメラと黒い意識が充満してきた・・・。 
敵を人間サイズと仮定したキラーマシーンがあった筈だ。 

「・・・やっちまうか」 
また一人事を呟いてしまった・・・。 


************************************** 

【壱拾弐話】 (後編)

奴らが会社の前に陣取り始めた。 
戦車の後にも車が3台ほどやってきたが、良く見かけたファミリーカーで俺にはメーカーも車種も良く解らなかった。 
それぞれの車から人が出て来た、一人、二人と数を数えてみるとせいぜい10名程だった。 

その10名が全員戦車の後方に集まって話をしている。 
訓練された部隊の人材だと、一度に壊滅させられるのを防止する為に散開して、攻撃され難い場所に隠れて連携PLAYをする筈だと思うのだが、この行動だけで、丸っきりの素人だと露呈した。 

こちらの入口には守衛や護衛などは雇っていないので、彼らは門の正面で好きな様に動いている様に思えた。 

何度も来ているので、何も無いと感じているのだろう。 
戦車を持ち出して、門でも強行突破するつもりなのだろうか? 

先行を打ち、先制攻撃して戦意喪失させるのが良い考えに思えた。 
屋上入口の赤い錆びたドアの左横にある備付の黄色いダイヤル式電話の受話器を上げてダイヤルした。 

応答音が7回ぐらいして樫原が電話にでた。 

『は〜〜い。地下層ラボですぅ〜〜〜うふ』 
「・・・・主任・・・相変わらず気持ち悪い声だすなぁ・・・まぁいいか、あのな外に伊藤が戦車で武装して10人ぐらいで待機中だ」 

『そっかぁ〜〜〜今回はぁ〜どうするのダーリン?また私が食料とか渡さないといけないのかしら?いつも犯されそうでとっても怖いの、バズーカー砲でも両手に抱えていこうかしら?』 

「・・・恐ろしいのは向こうの奴らだと思うぞ・・・今回はな、例のアレの機動性能テストに彼ら付き合って貰おうと思っている・・・3台ほど上に上げてくれ」 

『あ〜HONDAから買い叩いたアシモをバーサクモードにチューンした人形の事を言っているのかしら?・・・装備は何を持たせます?』 

「伊藤以外は問題無さそうだから、威嚇できる装備がいいな・・・そうだなロングアーム搭載型に高速バランサーユニットを搭載してくれ」 

『解ったわ、5分で上に上げます。脳波制御はダーリンのリンク処理でいいわよね?』 

「ああ、そうしてくれ、後4分50秒しかないぞ」 

『うふふ、そんな気がしてたから実は用意済みだったの。時間経過前に用意できると思いまぁ〜す。』 

俺は受話器を下ろした。 

樫原は妙なオカマだが仕事は出来る、仕事が出来る部下というのは詳細な支持を出さなくても上司の意を酌んでて、次の仕事の用意をしているものだ。 
まあ〜彼に聞くと『愛の力』とか言うに決まっているので、あえて褒めたりはしなかったが・・・。 

低いエレベーター音がして、地下10階からアレが上がってくる音がした。 
5秒後に厚さ4Mの鉄筋コンクリート製の門の5M横の右部にある1.5m四方の鉄の扉が開いて、凶悪なチューニングを施したアシモ3体が出て来る筈だ。 

しかし、対人となるとフルオート戦闘という訳には行かず、対象物を見つけるのは俺の役割で、制御機のある例の双眼鏡の所まで行ってコントロールしなければならなかった。 

今回アシモは俺の脳波とリンクして制御を行う。 
オフェンスとして常に制御はメイン一体のみだ。他二体はディフェンスを担当し一体目の援護と防衛攻撃に集中させる。 

3体出す意味合いは他にもあり・・・複数体出す事により、戦意を喪失させる役割も担っていた。 

双眼鏡の下部にヘッドセットが格納されている。 
ヘッドセットには水中眼鏡に似たゴーグルもついており、それを装着した。 

薄暗い視界。 
程なくして、中央に縦に一本光のスジが入る。その光が左右に開いて、150CM四方の出口となった。 
俺は突然アシモ自体になっている様な気がしている。 
エレベータの中でおれのアシモ改一号機は四角いコンテナの上にチョコンと座らされていた。 

左右にアシモ二体が並んで座っていた。 
突然、両脇の二体は立ち、駆け足で前方左右に散った。 
「?」と思ったが理解した、伊藤の仲間が俺に向けて弾丸を発射したのだった。 
俺(アシモ)の手に弾丸が握られていた。 
飛んできた弾丸を着弾の瞬間、瞬時に手で摑み避けたのだった。 

アシモは昔マスコット的なHONDAのロボットとして作られたが、我々によって改造されていた。 
チタンのボデイを骨格として、カーボン繊維状の衝撃吸収構造、反応速度 
0.01秒。移動速度20m/秒(平均)、重量38kgのこの軽量なロボットは、100mを5秒で駆け抜け、多彩なオプション兵器で目標を攻撃することが出来た。 

一応戦闘時は人間が操作するが、先ほどの様なエマジェンシーに関してはフルオートで防衛する。 

今回の小規模な戦闘から大規模な対人間用の白戦兵器として開発を行った。天災も怖いが集団の人間の暴走ほど残酷で恐ろしい物はないのだから。 

各アシモ改は全身に色を塗ってあり、俺のは朱色、他の二体は黒と水色 
名前は特にないのだか、順に夕方戦闘用、夜間戦闘用、雨天戦闘用と時間帯に分けて、性能を変えてあった。 
今回は丁度良い露天テストなので3種類ほど出したのだった。 
樫原が「赤いから角を付けましょ^^」とか提案して、俺のアシモには赤いトサカみたいな角も付いてる。
「これで強さ3倍」とか言ってたが・・・俺には意味不明でよく解らなかった・・・。 

さて、今回の武装は《ロングアーム》《高速バランサーユニット》の二点であり、重火器などは搭載してない。 

《ロングアーム》は腕の部分に多くの間接がある複合構造になっており、俺には外観の説明が難しかったが、樫原が説明会のサポートに付いた時『ズゴックの腕みたいな〜〜〜』と皆に説明したら、皆異様に簡単に納得していた。 

通常時、70cmほどの腕を瞬時に300cmまで伸ばす事が出来るので、一方的に相手に打撃を与える事ができる。 
ただし本体が40kg程しかないので、相手を殺傷する程ではないが、心情的には有効でほとんどの人間は逃げ出したくなるだろう。 
他にも使い道は沢山あるのだけど、今回は打撃のみの設定にした。 

《高速バランサーユニット》に関しては名前の通りである。 
ノーマルのアシモは移動時の最高速度1.7m/秒ほど、腰下を換装する事で20m/秒(時速72km)まで上げる事に成功した。 
時速だと遅い気がする様だが、瞬時にこのスピードが出せる、マンガの忍者の様な動きだ。 

この様に考えている間にも、赤白いモニターには黄緑色に表示される伊藤の仲間が逃げ惑い、俺の機体に続いて後続のアシモ改二体から攻撃されている。 

しかし、殺しはしなかった。 
徹底して・・・腕をピンポイントで攻撃したので、ひと月は腕がしびれて使えないだろう。 

可愛いと認知されていたアシモは・・・丸い二個の目に当たるカメラを真っ赤に点滅発光させて3体で暴れまわった。 
さぞかし、恐ろしい機械に見えたと推察される、的確な攻撃で腕を動かせなくなった9人が逃げ帰っていくのが確認できた。 

可動開始から約10秒で90式戦車を除いて人の気配が無くなった。 

とその時、アシモにリンクしていた俺の意識が屋上の自分自身の体に戻った・・・。 

90式戦車砲塔上面にある「12.7mm重機関銃M2」が建物に向かって滅茶苦茶に発砲した時、屋上の俺の体に跳弾が当たった様だった。 

右手が動かなかった! 
ゴーグルとヘッドセットを左手で外して、自分の右手を見た。 

右手の指の人差し指から右の3本がザックリと無くなっていた。 
手を付いていた建物の端に銃弾があたり、俺の指ごと破壊したらしい。 

こういう時は冷静にならなくてはいけない。左手で建物側に後ずさりして自分の右手を見ようとしたが、右目が白いモノに覆われてはっきり見えなかった。 
右側の頭もひどい頭痛がした。 
多分、頭も打たれたもかも知れない。 
即死しなかったのは、辺り所が良かったのか? 

それにしても、血液が白いとは・・・アレだな。 
かのりがどこかで俺の体を作り物に入れ替えて居たに違いない。 

俺はいつも「死んでもいい」と言っていたから、死なない様にしたんだな・・・。 
しかし、この意識の薄れ様は死にそうな気がしてきた。 

「もうダメかな」と思った時、俺の左目の視界に・・・俺の右腕が勝手に動いているのが見えた・・・メカニクルなフレームが露出して裂ける様に動いている。 

俺自身の意思とは関係なく体が勝手に他のモノに変化していく様に感じた。 

中指と人差し指の間から裂けていっている。手首ほどまで到達した後、それぞれ親指と小指の方向に90度ほど「ギィィィ」と鈍い音をして曲がった。 

突然俺の脳裏にくっきりと四角い画面が現れた。 
薄ら赤い画面に緑色の0と1の数字の羅列文字が右から左に流れ、画面はスクロールを何度も繰り返した。 
読めなかったのだが何故か意味が理解できた。コレは俺の生命維持の危機であり、緊急事態の対応をした後、この体を廃棄して、重要な内部のジェルが別の体に移動するらしい。 

と、突然一瞬画面が《緊急回避の為の対応行動》と赤い文字で点滅した。 
黒い画面の右下側には-0.01000のカウント。 
-0.00999に表示がゆっくり変わる。 

突然意識が自分の体に戻った。視界を戻ると90式戦車の120mm砲弾が発射されている【瞬間】が見えた。 

砲弾は反時計方向にゆっくり回転しながら、俺の方向目掛けて発射されていたのだった。・・・しかし、とても遅い・・・。 

俺は自分の腕を再び見た。 
手首の根元から白く発光した液体が飛び散りながら出ていた。 

この液体が俺の意識をこの体に宿らせている重要なモノである。 
【かのりっち】や【地下で作られている巨人】を生成する際にも同様に使用される液体だった。 
カーボン構造体の細胞気質を持ち、特異なプログラムを施す事により、外殻に張り付くようにして、生命体を宿す事の出来る固体に成長する。 
液体なので、液体の入口が手首にある。ワインのコルクの様に入れた後は封印して、内部が熟成して育つのを待つ・・・・。 

この様に長い文章表現での説明だと長く感じるが、コレを考えてたのはコンマ00005秒ぐらいだろうか? 

しかし、そうこうしている内に直径12cmもある対戦車榴弾が子供の乗る3輪車の様なスピードでやって来た。たしか初速1500m/秒ぐらいの筈だから・・・俺には0.00066秒が一秒の感覚で見えている事になる。 
空いている左手で弾丸を反対側に飛ぶように数回押した。 

俺にはカメの様な遅い動きのように見えるので、造作も無い事だった。 
重量も1500分の一に感じるらしくボーリングの球を床上で押す感じに似てた。 
原型を留めたまま180度反転した弾丸は後ろ向きになった状態でまだ微妙に後向きに進んでいる。 
そこで、弾丸の後方を思いきり摑んで押した。 
俺の腕力が20kあるとして、1500倍 約30トンの力で押し返してやった。 

押し返した後はエマジェンシー状態が解除されたらしく、【俺のニセモノだったと気づかなかった体】は本来の時間の流れに戻った。 

目下に見えた戦車に弾丸が飲み込まれて、そのゆがみで一瞬膨らんだように見えた後、爆発四散した。搭載弾薬や燃料に引火したのだろう。 
俺には爆発音は聞こえなかった、頭を打たれた時に耳の機能を奪われたらしい。 

しかし、彼らには砲弾が一瞬で反対方向に飛んできた様に見えたのだろうか?・・・一瞬で90式戦車が自爆した様に思えたに違いない。90式戦車に乗っていた伊藤も跡形もなく吹き飛んだであろう・・・。 

ふと見ると俺の左腕もメチャメチャに壊れていた。 
両腕が使えなくなったのでタバコを吸うのは暫くむりだなぁ〜とか考えた。 
・・・というか体自体も動かなくなって来ていた。 

俺の体の中にあった液体が会社の屋上に流れ出て白く発光する水溜りの様になった。 

目は見えなくなったが、何故か空は見えていた。 
目で見ない、感覚で見る空は薄暗くなって来ている筈なのに眩しい位に明るく輝いて見えた。 

輝いて見えていたばかりか・・・意識を集中するとそのずっと向こうまで見えてきた・・・いや俺自身が地表を離れ空に上っているのだ。 
構造体を通る時に見たものがあった。 
公園があり、学校、まばらではあるものの高い構造物もあった。 
俺の子供の頃の日本の昭和30年代に似ている街並み・・・。 
不思議だったのは、地上に向かって建物が逆さに建っているように見える。 

さらに俺の意識は上昇して、いつの間にか俺の意識は地球から離れた位置にあって、地球を眺めていた。 

とても不思議な光景だった。 
地球の両極端から白い棒状のものが伸びており、上できのこの傘の様になって北と南が二箇所で繋がっていた。 

そしてそれはゆっくり回転しているように見えた。 
よく観察すると白い粒の様な粒子が透明な氷に覆われている様であって、太陽の光を反射して全体がキラキラと発光している様に見えていた。 
非常に幻想的な光景だった。 

・・・何故か自分には時間の感覚は無く。地球が一回転するのを5分位の感覚で見ていた、そしてその傘は地球が一回転する間に数回転ぐらいしている様に見えた。 

そして、かのりがやって来た。 

****************************************************

【壱拾参話】【壱拾四話】 

inserted by FC2 system