Death earth love-R【5-6】

 

 

 

【伍話】

「じゃあ目を閉じて、それから手を前方に出して・・・」と彼が言った。 
言われてみれば、真っ暗で何も見えないので開けてても意味の無いのである。ゆっくり手を前に差し出した。 

出した両手の前に彼が居るというのが、ほのかな暖かさを感じてほっとした。 
漆黒の中では自分が一人で居るという気持ちが強くなる。椅子に座らされた後、彼が離れてしまったので少し不安な気持ちになったのだった。 

「目開けてるでしょ?・・・ちゃんと閉じてて」・・・と怒られてしまった。 
何故、解ったんだろ?何が起こるのかな?って期待して目を凝らしていた私だった。彼はこの漆黒でも目が見えるのか? 

しかし、バレてしまっては仕方ない;と思い目を閉じてみた。 
手首の辺りが熱い感覚がした。その辺りがまぶたの中で白く光って見える気がする。・・・直後、グイっと引かれる感覚があった。 
「えっ」急に辺りが白くなった。思わず目を開いてしまったが・・・眩しくて何も見えない。 
だんだん目が慣れて来た様だ。 
視界に入って来たのは不思議な光景だった。 

綜君が目の前に居たが、半透明だった。って、自分を見たらやはり半透明だった。なんじゃこりゃ? 

「やっぱり話しても、澪菜は理解するの難しそうだから直接見て貰ったほうが良いよね!」 
「綜君、コレはどういう事になってるん???半透明だけど・・・」 

彼は「下を見てて!」って言った。 

すると、下から迫ってくる半透明の大きな四角い箱があった。 
ゆっくり私の下に到達するとそのまま私が中に溶けるように飲み込まれてしまった。 

中を見回すと!!!私が居た。今の私よりは色が付いている。 
目をつぶって椅子に座っている様な姿勢で手を前に出している。 
綜君の姿はその箱の中に無いな〜って考えていたら、そのまま箱は私の体を突き抜けて上に上にと上って行った。 

「ちょっ!!何アレ?私が?・・・あわわわ」と慌てる私。 
「大丈夫だから、落ち着いて周りをもっと見て・・・」 

どうやら、水の中に居るようである。 
水の中に居る気はしないのだが?立体映像???かもしれないな。 

すぐ下の方を見ると、黒い長い形をした物がぐるぐる回っている。ぐるぐる回っている物は私の近くを通り抜け、またしても私の体をすり抜ける様にしてどこかに流れて?行ってしまったようである。通り過ぎてから電柱だと知った。電線で何本も繋がって流れていった。電車の様で意外と綺麗だなって思った。 


さらに下や横や上を見る。 
あらゆる物が半透明な状態で激しく動いていた。濃さはそれぞれ違うのだがなんだか見覚えのある物ばかり、CD、タンス、家そのもの、洗剤の箱、石や岩、トラクター、クルマ、ピアノ、ばらばらになった紙は多分本だったものだろう。 
意外に木が多い。包丁が飛んで来て私の心臓の辺りを通過したのには凄く驚いた。 

・・・暫くずっと見ていると・・・海の果てまで見えて来そうな気がして少し気が遠くなった。 


彼が言った「見て解る通り、僕らが住んでいた世界は破壊されてしまったよ。世界の殆どは水没してしまった・・・今は僕たちは一時的に精神体になれる機械を使って存在は出来てるけど、肉体として復活して生き抜く為にこれからどうするか考えなければいけない。」 

しかし、その話を私はそんなに驚かなかった。 
はっきり解らなかったけど、なんとなくこうなる気がしてたからだ。 
それよりも自分が半透明になって世界が滅亡していく光景を眺めている事の方が驚きだった。 


しかし、ずっとその光景を見ていてある不思議な事に気づいたのだった!! 

「綜君。他の人は何処に行ったの?誰一人見あたらないけど・・・」 

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【六話】

私と綜くんは、そのまま海の深く深くに潜っていった。 
潜ると言っても、ニュアンスがちょっと違うかも知れない。 
まず重力が感じられない、しかし上下の方向は解った。凄く熱い方向を向くと、街が下に見えた。 
少し南に流されたらしく、視界の右端にレインボーブリッジ、左端に東京ディズニーランドが見えた。 

何故解ったかと言うと、学校の授業中にPC室にて自習になりあまりもに暇だった事があり、クラスの友人数人とチャットしながら『グーグルアース』なるものを見ながら、友人達と”ディズニーランドとかお台場”とか今度皆で遊びに行こうと話していた事があったのだった。 

全く同じ映像の透過版が見えたので・・・『グーグルアースは凄かったんだなぁ〜〜』とか思った。 

しかし、あれは8月の暑い頃だったので、「どうせ行くなら男共も誘って若干奢ってもらいつつ〜の、汗臭くない秋に行こう」って話していたが、もうそれも叶わないのだろう。私はそんなにファンタジー派では無いけどやはりディズニーランドにはまだ数度しか行った事が無いのでちょっと楽しみにしてたのだった。 

とか考えてたら・・・友人達の事を思い出して、どうなったんだろう?って悲しくなって来た。 
精神体だから涙は出ないかなって思ったら、ちゃんと出た。服も存在してるし・・・あ〜〜〜〜もう頭の中は困惑でぐちゃぐちゃだ〜〜〜;;; 

私が泣いていてもお構いなしに・・・綜君は私の右手をぐいぐい引っ張って誘導していく、私の視界からは町並みが消えて、深くえぐれた断崖が見えて来た。 


「ここ何処?」 
「ここは日本海溝で千葉の房総半島の東側かなぁ」 
「日本海溝って日本のずっと東・・・・数分しか経ってない様に思えるけど・・・随分遠くに来たなぁ・・・」 

と、言いつつ私は余り不思議には感じなかった。 
子供の頃から綜君の近くにいると不思議な事ばかりなので、慣れたんだと思う。多分聞いたら『精神体だから距離とか時間のスケールは影響されない』とか言うに決まってる。 
綜君と付き合うには結果のみを受け入れるというのが、綜君と付き合ってく”彼女の務め”なんだと思い込む事にした。 

綜君が右手で下を指差して、「よーく見て・・・地上はほぼ全て水で流されて、海に飲み込まれた生物や君の知り合いは、ここの底に引き寄せられて来てる様だ。」と言った。 

なんだか夢を見ている気がしたが、彼の言ってる事は本当の事なんだろう。 
しかし実感が沸かない、地球壊滅関係の映画をいくつか見たことはあったけど、映画の中の話だからって思って見てたから、大抵はクライマックスで寝てしまっていた。 

実際に遭遇した自分はそこでじっと海溝の奥を見つめるだけだ・・・。 
初めははっきりと解らなかったが、ビデオのズーム画面を見ている様に底が段々近づいて見える様な感覚に陥った。 

暗い筈の海溝の奥が輝いていた。・・・徐々に光が増してる気がする。 
さらに意識を集中させると・・・小さな光が時計方向の螺旋状にそこの奥の光の方へ落ちて行き、到着した光の分だけ奥の光が増してる様だ。 

「?」・・・と、上から気配を感じた。 
上から三つの小さな光が降りて来る。光同士の距離は10cmぐらいだろうか? 
5mほど上に近づいたら、光以外になにやら輪郭があるのが解った。 
2mぐらいまで近づいたら光の点は大きな点が3つに加えて小さな点が2つあった・・・。 
「!!!!!!」言葉にならなかった。 
大きな点は両目と口、小さな点は鼻の穴だったのだろう。 

透明でアメーバー状で人の形をした物は頭部らしき位置に5つの点を光らせながら、私と綜君の間をすり抜けて下に螺旋状に流される様に落ちていった。 

落ちていく光は私と綜君に視線を送った気がした後、テレパシーの様に頭に直接不思議なメッセージを残していった。 
『・・・・帰ろ・・・カエロ・ウ・・・ミズか・ら・・オマエラも・・逃れ・・・られない』 

少し恐ろしい気持ちになったので、右手に力を入れて綜君を見た。 
綜君は・・・泣いていた。 
泣いてるの初めて見たので少し驚いた。 

「ねぇ澪菜」と彼が口を開いた。 
「僕が・・・キミを守り・・・抜くよ、しかし、それには時間が必要だ。 
キミの時間とキミの精神は凍結して僕に預けてくれ。きっと幸せになれる世界にキミを案内するよ。」 


瞬間、周りが真っ白になった。 


「ハッツ・・・・ごほごほごほっ」 
「ここはどこだろう・・・しろ・・・い、おへや・・・だぁ〜・・・おなかへった・・・・なぁああ」 

「え・・・あ・・・あたし・・・あれ?なんだっけ?みずが・・・」 

めのまえに『おとこのこ』がいるけど、だれ・・・だろう? 

『おとこのこ』がしゃべった。 
「ここは上空1000kmの衛星軌道上の僕の宇宙船だよ。外の新しい北極点から見える白い柱状の物が見えるかな?」 

いしきが戻って来た。 

「あっ・・・そうくん・・・どうしたの・・・わたし」 
綜君が言った。「ごめんね起こして、3年寝てて貰ったけど、3年おきにケアしなくちゃいけなくて、栄養調整と簡単な体調ケア後、また寝て貰う事になるけど」 

えええっアレから3年寝てたのか? 
アレと言ってもまだ良く思い出せない。 
好きな人の事だけはちゃんと覚えているもので綜君の名前だけはすぐに思い出せた。 

周りを見渡すと円状の薄暗い部屋にバルコニー大の窓が3つ等間隔であって、右手の方の窓から地球の一部が見えた。 

『グーグルアースの地球の白い・・・きのこ付きだ・・・宇宙船かな・・・。』と思った瞬間また眠気が襲って来た・・・。 




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