Death earth love-R 【9-10】

 

 

 

 

【仇話】


目の前の景色が信じられなかった・・・。 
奥に見える・・・高くそびえる黒い水壁の前に色々な形や大きさの朱色の粒粒が舞っていた。 
良く見ると・・・家の壁や石や金属らの白や銀色の物が夕日に反射して朱色に見えるのだ。 
舞っているように見えるその粒粒は、段々と大きさを増して薄暗い中でも何故かはっきりと見えてきた・・・。 

大きな石や建築材料に混ざって人間も降っていた・・・。 
人間の白い服や肌も夕日に反射して朱色の粒に見えたのだった。 
頭だけや手足、手足の無い体等も多く舞っている。 

会社のビルは先ほどから揺れ続けている為、先程、停止してた社長や秘書も妙な格好のまま床に崩れ落ちていた。 

俺も揺れで自由に動けずにいた、社長のデスクにしがみついて揺れをこらえていた。 
後方を見ると、少女アンドロイドは自然にぐら付きもせず立っている。 
足元が浮いているので重力制御を自分で掛けているのだろう。 
口元が動きブツブツ何か喋っている様だったが、聞き入ってる場合では無かった。 

「ピシッツ」まだ巨大津波は届いてないのに、窓ガラスから音がした。 
津波によって勢い良く飛ばされた石がガラスに当たったんだろうと思った。 
その後は続けざまに石が当たって、ガラスが割れたようだった・・・が波の「ごごごごごごごごごご」って音が大きすぎて、波音以外は聞こえなかった。 

俺も間も無く・・・あの舞う朱色の粒粒の一粒になるようだ。 
かのりが居たら助けてくれるかも知れないが、もう居ない。 
彼女の言っていた事が正しければ、もう妻も娘2人も失っている筈である。その事を考えると・・・生き残りたいという気持ちがかなり目減りして、このまま波に飲まれて死んでしまってもいい様な気がしていた。 

前方の波の上端が見えなくなるほど、波が迫って来た。あと数十秒もしない内にここも飲み込まれてしまうだろう。 
しかし、部屋が暗くなったのに後方から眩しいくらいの光が射した。 

振り向くと、俺のすぐ後に全身を白く輝かせている少女が居た。 
先程からぶつぶつ何か喋っていたが、この位近いとハッキリ聞こえて来た。 

『・・・プロセス112、移送転移時空固定・・・プロセス113、最終転移元座標固定・・・プロセス114、転移エネルギー量に対する転換光子の補充完了・・・プロセス115全工程完了確認・・・行動実行までのカウント・・・25・・・24・・・23・・・』 


その時、机の上の電話が鳴った・・・。 
電話の表示を見ると地下の研究室から掛かっている。躊躇なく受話器を取った。 
「かのり?かのりか?」 
『そう・・・かのりだよ。もうココは・・・ダメだよね。色々話している時間はもう無いから単刀直入に言うね・・・その子の能力を起動させました。地下の設備からの無線操作でこの建物内だけで実行可能・・・なの。』 
「いったい何の事だ?どうなるって言うんだ?」 
『もう時間が無いわ・・・行ってらっしゃい・・・北海道は寒いから体に気をつけてね!』 
・・・電話が切れた。 

後の少女は喋り続けている『15・・・緊急事態によりカウントを短縮します・・・4・・・3・・・2・・・』 

少女の体から出る光が増して、まばゆく光った。 
俺はジェットコースターで真上から落ちてく様な気持ち悪い浮遊感がした。 
一瞬、自分の体と少女が自分の目下に見えた。 
そのすぐ後、窓ガラスが全部一斉に割れて、部屋全体が濁流に飲まれていくのが見えた。 

俺は気持ちが悪くなり、意識が遠のいた・・・。 

 
・・ 
・・・ 

どのくらい時間が経ったのだろう。 
意識が戻り掛けて来た時に声が聞こえた。 

「・・・くん、長岡君、何ぼ〜〜〜としてるんだ?」・・・これは社長の声だ。 

俺は社長室に立っていた。 
自分の周りを見渡すと例の少女が横に立っていて、俺はいつもの研究所で着ている白衣のままだった。 

これは覚えがある、昨日失敗した研究成果を報告に社長に呼び出されたのだった。 
自分の時計を見ると2009年9月27日・・・昨日だ。俺はタイムワープしてしまったのか・・・しかし、俺の体験している昨日と異なっている点があった・・・。 

「長岡君、やったな!その完成したロボットがあれば、我社も世界のメーカーに先駆けた製品を開発する事が出来るぞ!・・・研究室もスタッフもココじゃ手薄だから、北海道の研究分室に今からすぐ行って指示してくれ。準備は水沢くんが手配済みだそうだ。こういう技術は鮮度が大切なんだ、急ぐんだぞ!!」 

俺は地下研究室に戻り用意してあったスーツケースと少女を伴い、2時間後の会社専用航空機で北海道に飛んだ。 
水沢かのりに逢いたかったが、彼女は丁度少し前に東京に予算会議出張に出ていた。 

メールを出しても返信が来なかった。 
・・・何故か妻と子供の携帯にもメールは届かなかった。 

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【壱拾話】

会社の屋上のヘリポートから空港の専用機に乗り換えた・・・らしかった。 

らしかった・・・と表現したのは、呆然としたまま乗り込んだヘリコプターMD902の中で出された酔い止めと言われて差し出された飲み薬で強制的に眠らされていたからだった。 

気が付くと、機上の中で一番前、4列並んでいる黒いシートの一番右の窓側に座っていた。うちの会社でたまにレンタルして使っているエアバスA320のシートだった。 

気圧の変化で耳鳴りがしていた。窓の外を眺めると雲の上で窓から眩しい光が射している。 
乗っている航空機は前面の液晶パネルを見る限りでは上昇飛行を終えて、水平飛行に移って飛行している所だった。 

一席離れて中央側の椅子に少女が座っていた。 

少女といっても、コレはロボットなので、彼女の右腕の手首についているブレスレットの様な起動装置で起動を掛けない限り動作しない。 
眠っている様に見えたが、多分コレは夢さえも見てない筈である。 

シートベルトを外して、椅子から立って辺りを見回した。 

後の席から、ぱらぱらと研究室のスタッフ30人程がまばらに座っていた。 
本を読んでいる者、窓の外の風景を楽しんでいる者、寝ている者、仲の良い同僚同士で話をしている者。 

・・・中に妻と娘が乗っていないかと期待して必死に目を凝らして見たが、やはり居ない様だった。 

少しの絶望感と喪失感、ついさっき俺自身に起こった不思議な出来事が夢の様に思えて来た・・・が、自分の腕時計と機内備え付けのパネルの時間表示を見比べると一日の時間差があった。 
一日前の過去に戻って来ている自分がいる! 

他の皆もそうなのか・・・? 
しかし、急なフライトプランを聞かされたのは俺のみだったかも知れない。 
・・・見る限り、ちょっとした社内旅行気分のイメージで俺のようにパニックを起こしている者は一人もいない様に見える。 
緊張感も感じられず、この旅行を楽しんでいる様に見えた。 
かのりが事前に準備していたのか??とも思う・・・。 
なぜなら、俺一人ではプロジェクトをまとめて実行する事が出来ない、この飛行機に乗っているスタッフがいないと・・・それにまとめ役の・・・かのりがいないと。 


・・・と服の裾を右からぐいぐい引っ張られて、振り向く。 

「・・・起きたのね。危ないから椅子に座ってなさい!」・・・と少女が眉を吊り上げて喋っていた・・・少女が起動していた、更に何故か命令口調である。 

機内で「ドッ」っと笑い声が起こった。 
後の席に座っていた名前まで覚えてない派遣女子社員が笑いが止まらないらしく、目に涙を浮かべてまで笑っていた! 

その横に座っている部下の樫原が「ククク・・・相変わらずですね、部長は【かのりさん】には勝てないんだからぁ〜」とバカにしてるんだか、媚びているんだか解らない喋り方で言った・・・こいつはこういう奴だ、バイセクシャルな面を持ってて、オカマなのか男らしいのか解らない。・・・しかし頭脳は優秀な男でかのりのサポートをしている男だった・・・が俺は嫌いだった・・・何度かケツを触られた事があった・・・。 

「かのり???コレが?」俺は呟いて、横の少女を見た。 
少女は正面に無表情で向き直っていた・・・返事しないな・・・と考えていたら数秒後に急に喋り出したのだった。 

「・・・メール及び自律対話モードに入ります・・・伝文【水沢かのり】送信元【時空座標R103.50.010.60】より転移後の【時空座標R103.50.010.71】の【長岡博幸】宛てです・・・。」 

「・・・このロボットはあなたをサポートする為に作りました・・・実際の私とは違いますが、私の記憶や思考をシュミレートしてこれから行わなければならないプロジェクトを完璧にサポートしてくれるでしょう」 

・・・どういうことだ? 
そもそも、俺が体験したあの災害が起これば会社のプロジェクトなんて・・・全く意味が無い物となるのではないだろうか?ここは機上であり社員に話すとパニックに陥る可能性が高いので、話す事が出来ないが、無事に北海道に着いたら俺は俺の知っている事は全部公表してしまおうと思っていた・・・そして俺にはもう生きている価値は無いのかも知れないと考えてた。 


「それでは人間が進化してきた意味がありません。この宇宙に知的生命体として地球で生まれて進化してきて、同族同士で殺しあってまで独自にテクノロジーを進歩させて来たでしょう?」 

・・・何を言っているんだ?・・・というか俺の思考をそのまま読み取って返事をしている様だった。 
しかし・・・テクノロジー・・・そうか俺は目覚めたばかりで、いつものボケた思考の持ち主の俺に戻ってしまっていた様だ。 
段々と自分の目的を思い出してきた。 

「あああ。またいつもの部長に戻って来ましたね・・・このプロジェクトは今までの過去時空で99.9パーセント失敗してます。一万二千年前も何度もシュミレーションしても完全失敗でした、一度文明を抹消してまでも再構築して築きあげた今回の文明のテクノロジーで・・・完全なる叡智の結晶なる巨大な人型を造りあげて証明しなければならないのです・・・それにあなたは何世代も生まれ変わる一万二千年前に【オリジナルのかのり】と契約してますから、このプロジェクトを完成させない限り死ぬことは許されません。」 

・・・しかし・・・証明ってどうするんだ?何かと戦うのか?・・・全く俺には想像がつかなかった。 

「何をするかについては私さえも何も知らされてません。一万二千年前のオリハルコンを素材に使った記録がありますが、完敗だったと聞いてます。結果その時の人類は失敗だったとされて抹消されました。・・・今回も別時空においては999回実験して一度も成功してません。999回失敗した為、地表で人類が生き残れるスペースは全世界の地表面積の約1億3333万平方キロメートルの内99.9パーセント海に飲み込まれました・・・これに良く似たゲームがあります。・・・将棋がそうです。今回は既に99.9パーセント手駒は取られてしまっています・・・。」 


そうか、この世界ではまだ発生してないが、海に飲み込まれるのはこの為だったのか・・・と俺は知った。だとしたら敵は・・・ 

「そう。敵と呼べるか解りませんが・・・遭えて敵と仮称するなら敵は人類のものとは違う神々です。私は人類側の神の使いであってサポート役、あなたは人類側の最後の巨人クリエーターです・・・地表は北海道とブエノスしか今回は残ってません。」 

ブエノスアイレス・・・何かあった様な気がした。 
俺の記憶はいつも曖昧で思考が集中している時には働くが、その分他の事をすぐに思い出せないのが悩みであった。 

「ブエノスアイレスにはわずかに今回のキーとなるべき素材が眠ってます・・・【オリジナルのかのり】がこれを探しに行っている所です」 

しかし・・・北海道に渡っても行わなければ行けない事が山ほどある。時間はどれほどあるのだろうか? 

「・・・制限時間はあと3年と数ヶ月です・・・今までの別時空の試練においてペナルティが発生して、使用できる物資は限られてますが・・・人類には失敗や損失した分を余っても補える学習能力が備わってます。相手は一個の完成体ですからそれ以上の進化はありえません。人間は死んだら全てを忘れてしまいますが、記録に残して後世に何割かは残して発展させる事が出来る。・・・時間はかなり掛かりましたがもしかしたら逆転する可能性が・・・少しだけあるかもしれません。」 


話してる間に飛行機は高度を下げて雲の下に出た。 
海上では、組み上げに必要な物資を積み込んだタンカーが列をなして北海道に向かっている所だろう。 

程なくして、旭川空港に降り立って、専用バスで士別の研究所に向かった。 
ロボットの名前を樫原以外の部下達が「かのりっち」と呼んでいた。 
【かのりっち】か・・・俺には恥ずかしくて呼べない。 

バスの中でこれからのプランを【かのりっち】が説明してた。 
これから北海道の研究所に拘束されるのに皆取り乱しもせずに聞いている。 
どうやら皆、【かのりっち】に部分的に意識コントロールされている様だった。 

しかし、見ていると不思議とその辺にいる普通の少女の様に見えた。 
人類はテクノロジーの集結でこれほどまでの物を想像出来るようになったのだった。 

俺が作ったのだが・・・先人達のテクノロジーがなければ作れなかった代物だ。人間は意外と神に近づいているかもしれない。 

自然の驚異には人間は未だ勝てないが、この試練が成功?したらもっと素晴らしい生命体に変われるかも知れないと思った。 


旭川の街中を通り過ぎる時に俺だけバスから降ろして貰った。 
どうせまだ生きて行くなら、好きな事はしておきたい。 

街中を通った時にカーディラーの展示場で、偶然昔欲しかったクラッシクカーを見かけたので、下ろして貰ったのだった。 

何故か樫原が付き添いで付いてきた。【かのりっち】の指示だろう。 

交渉すると、売り物では無いらしかったが、自分の口座の持っているコンマ数パーセントの金額を出せば譲ってくれるらしかったので購入した。 

イベント用にナンバーも付いていたので、買った車に乗って帰ることにした。 
40年前の二人乗りのスポーツカーだったが綺麗にレストアされていて運転は心地よかった・・・が・・・コーナーを曲がる時にわざとらしく樫原が抱きつこうと狙ってくるのが恐ろして、二回ほど殴ってしまった。 



・・・これが3年前の話だ。 
そして・・・あと数ヶ月しか時間が無かった。 
【オリジナルのかのり】にはあれから未だ会っていない。 
【かのりっち】と呼びたくなかったので俺は【小娘】と呼んでいた。 

士別の街中を抜けて、山遇いにある研究所の入口を通った。 
入口を抜けると、他の職員が住んでいる社員宿舎を通る。 
出社時間が過ぎているので誰もいない。 

研究所は地上五階建て、地下10階建てである。 
入口の脇の車庫に車を入れて、エレベーターで研究室に向かった。 



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【壱拾壱話】【壱拾弐話】 

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